
出版社 中央公論新社 (2023/4/20)
発売日 2023/4/20
言語 日本語
訳 三浦裕子
あらすじ
\ 第75回全米図書賞・翻訳文学部門(Lin King訳)受賞!/
\ 第10回日本翻訳大賞受賞!/
炒米粉、魯肉飯、冬瓜茶……
あなたとなら何十杯でも――。
結婚から逃げる日本人作家・千鶴子と、
お仕着せの許婚をもつ台湾人通訳・千鶴。
ふたりは底知れぬ食欲と
“秘めた傷”をお供に、
昭和十三年、台湾縦貫鉄道の旅に出る。
「私はこの作品を過去の物語ではなく、
現在こそ必要な物語として読んだ。
そして、ラストの仕掛けの巧妙さ。
ああ、うまい。ただ甘いだけではない、
苦みと切なさを伴う、極上の味わいだ。」
古内一絵さん大満足
1938年、五月の台湾。
作家・青山千鶴子は講演旅行に招かれ、
台湾人通訳・王千鶴と出会う。
現地の食文化や歴史に通じるのみならず、
料理の腕まで天才的な千鶴とともに、
台湾縦貫鉄道に乗りこみ、
つぎつぎ台湾の味に魅了されていく。
しかし、いつまでも
心の奥を見せない千鶴に、
千鶴子は焦燥感を募らせる。
国家の争い、女性への抑圧、
植民地をめぐる立場の差―――
あらゆる壁に阻まれ、傷つきながら、
ふたりの旅はどこへ行く
(ソース:Amazon)
感想
残暑の候、
日中はまだアイスが恋しいのだが
暦の上では秋ということらしい。
「読書の秋」「芸術の秋」と言うけれど、
まずは積ん読(つんどく)を崩す
「読書の秋」から始めたいものである。
もちろん、途中で美味しいものが
目に入れば、すぐに「食欲の秋」に
切り替わる私であることは
言うまでもない。
そんな私にピッタリな海外小説
『台湾漫遊鉄道のふたり』を読んだ。
この小説は
2024年全米図書賞翻訳部門と
2024年第10回日本翻訳大賞を
受賞し、国境を超えて支持されている。
昭和13年「日本人作家・青山千鶴子」と
「台湾人通訳・王千鶴」が
当時、日本の統治下にあった台湾で、
鉄道の旅に出る物語。
郷土料理に酔いしれながら、
美食と鉄道旅、
そして女性二人の心の揺れが
交錯する、百合小説。
甘くてほろ苦い魅惑的な作品だ。
まずページを捲ると、
そこには見たこともない光景が
広がっていた。
昭和13年の南国の島、台湾の干城橋通り。
遥か向こうまで立ち並ぶ
赤煉瓦の支那式建築、
商店に吊られた赤や黄色の提灯、
花のような雨除けの白い布、
ありとあらゆるものを売る露店、
色とりどりの野菜や果物、
そして肉や薬草……。
お椀を手に何か食べている人もいる。
椀の中は、柔らかそうな白い塊や、
透明な黄色の塊だったり、
黒くて小さなつぶつぶだったり__。
まるで読んでいる自分も、
共に旅に出かけたように心を掴まれ、
私は千鶴子の目を通して
昭和13年の台湾に、
いともあっさりとワープした。
読書というものが、
見たこともない光景を見て、
会ったこともないタイプの人に出会い、
経験したこともないことを
擬似体験できるものだとしたら、
この小説は〝まさにそれ!〝と言えよう。
そして何より心惹かれたのは
素敵な女性、青山千鶴子と王千鶴の
二人だ。
語り手が千鶴子なので、
特に王千鶴が
とても魅力的に描かれている。
私までドキドキとした。
しかし__
物語は単なる楽しい
グルメ紀行ではなかった__。
植民地の軋みによる
一筋縄ではいかない
展開が待っていた。
やがて「優しさとは何か」「友情とは何か」を
物語は問うてくるのだ。
優しくあることと、相手を傷つけないことは、
必ずしも一致しないということに、
自分自身をも省みることとなった。
優しさの中に潜む複雑さと危うさ。
相手の立場にどれくらい立ちきることが
できるだろうか?
私はアホウなのでなかなか難しそうだ。
でもそうして少しずつでも、
人を思いやれる真の優しさの
第1歩を踏み出せたら……と願う__。
物語の中で、
二人の間に流れる空気の
微かな温度差が、
じわじわと効いてくるのは
まるでスパイスの隠し味のよう。
最後の仕掛けまで含めて、
甘さと苦みを絶妙にブレンドした、
台湾料理のフルコースのような作品だった。
まさに絶品に美味しい魅惑の1冊だ!
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著者紹介
楊双子 (よう ふたご)
(Yang Shuang Zi)
1984年生まれ、台中市烏日育ち。
本名は楊若慈、
双子の姉(「楊双子」は双子の姉妹
「楊若慈」と「楊若暉」の共同ペンネーム)。
小説家、サブカルチャー・大衆文学研究家。本作が初邦訳の小説作品。
その他の著書に『花開時節』『撈月之人』
『花開少女華麗島』(未訳)や、
著者原作のマンガ『綺譚花物語』
(サウザンブックス)がある。
現在は台湾の歴史を題材にした小説執筆に
力を注いでいる。
(ソース:Google Books)
翻訳者紹介
三浦裕子仙台生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。
出版社にて雑誌編集、
国際版権業務に従事した後、
2018年より、台湾・香港の本を
日本に紹介するユニット
「太台本屋 tai-tai books」に参加。
文芸翻訳、記事執筆、
版権コーディネートなどを行う。
訳作に林育徳『リングサイド』、
ライ・ホー
『シャーロック・ホームズの大追跡』など。