煩悩まみれの私と、静かな傑作 :小野寺史宜『ひと』あらすじ、感想

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あらすじ

高校生の時に
父親を事故で亡くし、
二十歳の秋には、
女手ひとつで
自分を東京の私大に
進ませてくれた母親を
急死で失った
柏木聖輔(かしわぎ せいすけ)。 
たった一人になり、
奨学金を返せるあてもなく、
大学をやむなく中退した聖輔は、
仕事を探さなければと思いながらも、
途方に暮れる日々を送っていた。 

そんなある日、
空腹に負けて
吸い寄せられた
下町の商店街の惣菜屋で、
買おうとしていた
最後の50円のコロッケを、
見知らぬおばあさんに譲る。
この小さな出来事をきっかけに、
惣菜屋の店主夫婦や
一緒に働く人たち、
そしてかつての友人たちとの
温かい縁が結ばれていく。 

人生を変えるような
劇的なドラマが
起きるわけではない。
仕事をして、
ごはんを食べて、
人と話す。
そんな日々の
小さな積み重ねの中で、
聖輔は少しずつ自分の足で
前へ進み始める。 

ときに面倒な大人や
自分勝手な人間に
振り回されながらも、

腐らず、まっすぐに
人と向き合っていく青年の姿を描いた、
じんわりと心にしみる日常小説。

「ひと」とのつながりが、
孤独な心を
そっとあたためてくれる物語です。

2019年第16回本屋大賞で
第2位にランクイン。
2022年
第3回宮崎本大賞を受賞した。

感想

「コロッケ一個から、
人生が動き出す。」
……いやいや、
人生って、
そんな簡単に動く?
サクサクの衣につられて
物語に引きずり込まれるのは
私くらいかもしれないけれど……

そう思いながら
読み始めた
小野寺史宜さんの
小説『ひと』。
ところが読み終えてみると、
人生を動かすのは、案外
こういう小さなもの
なのかもしれないと思えてくる。

二十歳で両親を亡くし、
大学を中退した
柏木聖輔(せいすけ)。

彼の前に現れるのは、
特別なヒーローではない。
惣菜屋のおじさんや
おばさん、
一緒に働く人、
商店街で出会う人たちだ。

聖輔(せいすけ)の
人生は、
誰かに突然救われるわけではなく、
仕事をして、
ごはんを食べて、
人と話すという
日々の小さな積み重ねの中で
少しずつ前へ進んでいく。

それが、とてもいい。

人生を変えるような
劇的な出来事ではなく、
誰かの何気ない一言や
親切が、
いつの間にか
人の心を支えている。

「人に救われる」ということを、
大げさに描かないところも
この作品の魅力だと思いました。

また、
良い人ばかりが
登場するわけではないところも
最高にリアルだ。

ちょっと癖のある人や、
自分のことしか考えていない人も
ちゃんと出てくる。

「世の中、みんながいい人なら
苦労はしない」という
現実を突きつけられつつ、
だからこそ、
きれいごとだけではない物語に
引き込まれました。

人の優しさを受け取りながらも
人の悪意や身勝手さには
決して流されない。

彼のそんな静かな
「芯の強さ」や
「相手を見極める目」には、
かっこよさがありました。

✰⋆。:゚・☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・

また、読んでいると
学生時代に
部活の先生から聞いた
言葉を
思い出しました。
「誠実であること」
「不平不満ばかり言わないこと」
「感謝の心を持つこと」。
当時は「はいはい、右から左ね」と
聞き流していたが、
大人になってみると、そのひとつひとつがどれほど大切か、
しみじみ分かってくる。
それは特別な教訓ではなく、
人が生きていくための基本なのだと。

……と、
ここまで書いておいて、
「では、私はちゃんとできているのか」と
鏡に映る自分に聞いてみたところ、
脳内のあちこちから
「お前が言うな」
というツッコミが
飛んできた。
私はまだまだ、
煩悩まみれの修行中です。

『ひと』は、そんな当たり前の、
でもとても大切なことを、
改めて静かに思い出させてくれる
良作でした。

人って、
案外あたたかい。
そして、まっすぐに生きることは、
思っている以上に
強いことかもしれない。

本を閉じながら、
「よし、明日から
もう少しちゃんとした人間になろう」と
心に誓った。

……たぶん、
明日の朝には、
二度寝の誘惑に負けて
すべてを忘れている
気がするけれど。

下町荒川青春譚

ちなみに『ひと』には、
『まち』『いえ』へと続く
「下町荒川青春譚」という
作品群があります。

それぞれ独立した物語ですが、
同じ町を舞台に、
人と人とのつながりが
描かれているそう。

『ひと』を読み終えた今、
「次は『まち』を読んでみようかな」
と、ちょっと気になっている私です。

気になる方はこちらからどうぞ。

著者紹介

小野寺史宜(おのでら ふみのり)

1968年生まれ

千葉県生まれ。
法政大学文学部英文学科卒業。

2006年、短編
「裏へ走り蹴り込め」で
第86回オール讀物新人賞を受賞
(乾ルカと同時受賞)。
2008年、『ROCKER』で
ポプラ社主催の
第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞し
同作で単行本デビュー。

2019年、『ひと』が
第16回本屋大賞で第2位にランクイン。
2022年には同作で
第3回宮崎本大賞を受賞した。
(ソース:ウィキペディア)

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